SSブログ

ダニエル・ハーディング・東フィル/マーラー6番 [音楽]

《交響曲第10番(クック版)》
開演前から心臓が高鳴っていた。ステージにまずオーボエ、続いてフルート奏者の斉藤和志氏、次々と団員が現れそれぞれの席に着いていく。斉藤さんの表情がいつもより厳しいような感じがする。オペラシティ9列目7番の席からは、ステージの位置が高すぎて、座ってしまうと後方は見えない。何と言ってもマーラーは100名以上の編成なので、ステージがビッシリと埋まってしまう。
固唾を呑んで見守る中、ダニエル・ハーディング氏が登場。盛大な拍手。もう聴く前からこの拍手。
ハーディング氏が観客に背を向け、一呼吸おいてサッと指揮棒が振り下ろされた。6 番の1楽章、ザッザッザというあの響き。テンポは速い。1小節聴いただけで、ああ、ダニエル・ハーディングのマーラーだ、ともう感動し戦慄が走る。私の席からは斜め横からハーディング氏の顔がよく見えた。独特の優雅さと、歯をくいしばっているように見える容赦ないあの厳しい表情。何度もDVDで見ているあの指揮姿。手の動き、身体の動き、背中からものすごい集中力を感じる。
東フィルは、いつも聴き慣れた東フィルではないかのようで、これはまさにダニエル・ハーディングのオーケストラだ。

あっという間の1時間20分。最終楽章、緊張感は緊迫感まで高まり、オーケストラの団員の表情はあたかも『神事』を行っているかのごときだった。すべてが終わったとき、ハーディングは姿勢を崩さない。団員も弾き終えた瞬間のポーズのまま、まるで彫像のように固まって動かない。(「神の許しがあるまで動いてはならぬ・・。」)やっとハーディングの手が静かに降ろされ、観客は少しずつそして一気に万雷の拍手へと・・。
こんな音楽が聴けたのだから、やはり生きていることも無駄ではなかった、と思った。

サインをもらう人達の列に私も並び、サインをもらって、それでもぐずぐず残って握手をしてもらった。魔法の指と握手だ! 間近で見るハーディングはステージ上とはまるでちがった。妖精のような軽さと繊細さが漂っていた。まだ32才なんだ・・。ステージの上では信じられないオーラをまとっていたけど。
翌日の同じプログラムのチケットも買うべきだった、とものすごく後悔した。マーラーの6番への思い入れはちょっと誰にも負けないのではないかと思っているので・・。マーラーを知る前の人生と知った後の人生、私には全く異なるものだ。

追記;ハーディングがマーラーの6番を振るのは今回が初めてでとても楽しみにしていたそうです。「マーラーの音楽の中にはマーラー自身語っているように、人生のすべてがある。幸せも、悲哀も、つまらないものさえも・・。」
「指揮をするときは、確信があってするのでなければならない。そして、振り終わった後に反省をしなければならない。音楽はいつも我々のはるか上にあり、常に新しい挑戦だ。もしマーラーがそこにいたとしたら、まず指揮者として謝らなければ・・。」とはハーディング氏の謙虚な言葉。「ウィーンフィルはマーラーを演奏するのにもっともふさわしい音楽的言語(方言)を持っているオーケストラだと思う。」と語っていましたが、イエロー・レーベルに移籍して、その第1弾が、ウィーン・フィルとのマーラー《交響曲第10番》だというのもすごいことです。このCDは非常に美しい音楽でウィーンフィルの演奏シーンとハーディングの指揮が眼に浮かぶようです。
(追追記)
ハーディング氏は、リハーサルでは熱と咳で体調がひどく悪かった、と聞きました。ステージではそんなこと微塵も感じさせなかったのはさすがです。14日の演奏後のサイン会でのハーディング氏が、自我を消し去った霞のような、精霊のような、存在に見えたのも当然でした。体調が良くないのにマーラー6番という大曲を振ったあとだったのです。普通ならサインなどせずに倒れていたいところでしょう。16日のトークショーでは元気そうでした。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 2

ふくふきママ

こんにちは!素晴らしい6番を聴かれたとのこと、ほんとにほんとに羨ましいです!そして、こんなに若い、素晴らしい指揮者がいらっしゃったのですね。。。

そういえば、わたくしのブログによくお越しくださる「ぼぶ」さんという方が、サントリーホールでのダニエル・ハーディング指揮マーラー6番のコンサートについて、ご自身のブログにアップされていました。

本当に、印象深いコンサートだったのですね。オペラシティとサントリーホール、両方で演奏会をされたのですね。わたくしも聴きたかった・・・・!!!
by ふくふきママ (2008-02-18 23:02) 

ゆき

サントリーも聴きたかったです!惜しいことをしました。
代わりに、ちょっと無節操かと思いつつ、トークショーまで見にいきました。そこに集まっている人達は少なくとも3回のうち2回はチケットを買った人のようでした。
by ゆき (2008-02-19 20:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。