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アンサンブル・ノマド第43回定期演奏会 接触の様相 Vol.3 [音楽]

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2012/02/19 オペラシティ・リサイタルホールにて

アンサンブル・ノマドは常に前に前にと進み続けているので、聞く側はいつも新しい思いがけない世界に出会うことができる。
今回のテーマは《政治の季節〜列伝風に〜》だった。

(プログラムに書かれた佐藤紀雄氏の挨拶文 )

「第43回定期演奏会は『接触の様相Vol.3』として、近現代史のなかで、その命知らずな行動によって特異な光輝を時代に放ち、控え目な存在であってもその後の人々に深い印象を残した民衆のなかの英雄をたたえるプログラムをつくった。
20世紀の音楽の世界が専門性を増すごとに社会との結びつきが希薄になっていったなかで、ここに現れる民衆の英雄的行為や存在は一部の作曲家を奮い立たせた。
作曲家と彼ら情熱的な実践家のエネルギーの結び付きは、稀に見るリアリティーあふれる力強い音楽を生み出した。」

この文の通り、演奏された曲はどれもが独特の力と輝きを持っていて、そこに演奏者のあふれるようなエネルギーが加わり、ちっぽけな日常をきっぱりと忘れさせてくれた演奏会だった。
やはりアンサンブル・ノマドはすごい。
ノマドの演奏会にはほとんど足を運んできたが、行くたびに新鮮で驚きがあるのだからまったく素晴らしい。

<プログラムノートより抜粋>

1.C・ウルフ(1934〜):アカンパニメンツ(1972)

中川賢一(piano・語り)

ウルフは1970年代に毛沢東主義に接近し政治的な思想を取り入れた作品を書き始めた。語りで読まれるテキストはヤン・ミルダールとグン・ケスレルの共著「中国ーつづけられた革命」という本から取られたもの。アカンパニメンツは語りと伴奏の意味だが、毛沢東主義革命における『同士』の意味にもかけられている。

2.松平頼暁(1931〜):反射係数(1979〜80)

吉川真澄(soprano)  甲斐史子(viola)  中川賢一(piano)

長崎県月島の隠れキリシタンのオラショを素材とする、ヘテロフォニー、レシタティーヴ、ラオダテ、ナジョー、アンティフォニーの5曲からなる。
本拠地から隔離され、少数化したグループは特殊な変化をとげていく。・・変化は旋律だけでなく進行の本質にまで及ぶ。大事なものは箱にしまうが、年月を経ると箱の中身よりも箱そのものを大事にする。ここに、私は日本を感じる。(松平頼暁)

3.高橋悠治(1938〜):この歌をきみたちに(1976/1981)

菊地秀夫(clarinet) 甲斐史子(violin)  菊地和也(cello) 中川賢一(piano)

「この歌をきみたちに」をアメリカ内外の抑圧された人民のたたかいにささげる。
第1楽章「きみたちは解放の道をあゆむ」グエン・タン作曲の「全面的勝利へ前進」というヴェトナムの歌にもとづく。
第2楽章「ラレスに会いにきて」はプエルトリコ独立運動の歌「ボリクアよ」による。
第3楽章「幸福の歌」は、1964年キット・カースン降伏したナバホ族の女たちが希望をうしなわないために歌った歌。(高橋悠治)


4.F・フィリデイ(1973〜):アナーキスト・セランティーニの葬儀(2006)

佐藤紀雄・甲斐史子・宮本典子・木ノ脇道元・佐藤洋嗣・菊地秀夫(percussions)

セランティーニは薄幸な境涯に育ち学生生活の中で社会的問題に目覚め、共産主義や社会主義に近づいていったがやがてアナキズムに行き着き、1971年からアナキスト・グループに属しながら活動を始める。1972年5月5日、イタリアのピサ。反ファシスト・デモの最中、10名近くの警官に取り囲まれ棍棒で強打されたあげく刑務所に放り投げられ、なんら医療的処置を受けることなく二日後の5月7日に死んだ。

5.L・ベリオ(1925〜2003):オー・キング(1968)

吉川真澄(soprano) 木ノ脇道元(flute) 菊地秀夫(clarinet) 花田和加子(violin)  菊地和也(cello) 中川賢一(piano) 佐藤紀雄(conductor)

アメリカのキング牧師はインドのガンジーの非暴力主義に傾倒し黒人解放のための公民権運動の先頭に立った。ワシントン大行進での「私には夢がある」という演説は世界中を感動させ、1964年には新公民権法が成立し、同年ノーベル平和賞を受賞するも、68年テネシー州メンフィスで白人に暗殺された。この時、ベリオは祈りを込め、ほとんど「オー・キング」の歌詞のみによってこの作品を作曲した。

6.F・ジェフスキー(1938〜):カミング・トゥギャザー(1971)

和田 礼(narrator)  木の脇道元(flute)   菊地秀夫(clarinet)  江川良子(saxophone) 野口千代光・花田和加子(violin)  甲斐史子(viola) 菊地和也(cello) 佐藤紀雄(electric guitar) 佐藤洋嗣(electric bass) 中川賢一(piano)
宮本典子(vibraphone) 吉川真澄(accordion )

1971年、ニューヨーク州のアッティカ刑務所において、あまりの劣悪な生活状況の改善を要求して暴動が起こった。2200人いた囚人のうち1000人ほどが暴動に参加。所員33人を人質に取り、4日間の抗議活動と交渉のすえ、当時の州知事ネルソン・ロックフェラーが武力による鎮圧を州兵に命じた。その結果囚人29名を含む39名が命をおとした。ナレーターが読んでいるのは、一人の囚人サム・メルヴィルの手紙を、加減の法則によって再構築されたもの。楽器のアンサンブルパートも同様の法則によってつくられたベースラインを基に、セクション毎に違った規則に従って即興演奏されている。

活動家に捧げられた曲は、とんがったところはなくむしろ暖かさを感じた。
すべての演奏を聞き終えたとき、ホンワリした気持ちに包まれていた。人類の歴史において懸命に生きた人たちの力、それに感動して音楽を創った作曲家のエネルギー、それを演奏する人々のエネルギー、これだけの力に囲まれることは「癒し」そのものだと、つくづく感じた演奏会だった。

次回アンサンブル・ノマドの演奏会は「設立15周年記念」です。
2012年6月24日(日)14:00開演   東京オペラシティリサイタルホール

2012年9月23日、2013年2月17日と続きます。聞き逃せません。 


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