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シルヴィ・ギエム [芸術]

「白鳥の湖」
暗闇の中、緞帳が上がると、ほの暗く青白いステージにたくさんの白鳥が静かにたたずんでいる。それまでいた世界とはあまりに別の世界が突然現れ、思わず息をのむ美しさ・・。
マッシモ・ムッルの王子が登場し拍手が湧く。息を止めて観客が見守る中、シルヴィ・ギエムの白鳥が静かに舞台に現れ、観客は熱を帯びた拍手を送る。「白鳥の湖」第2幕の始まり・・。
ギエムの白鳥は、現代バレエで見せる強靱なバネとエネルギーの奔流はどこに脱ぎ捨てたのか、というつつましさと優美さと気高さ・・。
人間に生まれて良かった、と思う一瞬だ。この芸術、この完璧な表現。
ストイックに、来る日も来る日も肉体を鍛錬し練習を重ね、食べるものも制限し、普通の人が味わう遊興とは全く無縁の生活をしているこの芸術家たち。
そういう精神性を持った者だけが描くことができるバレエや音楽などの芸術を、なまくらの私が味わえる。
これは奇跡のように嬉しいことだ。たいていは人間でなければ良かったと思っているが、人間で良かったと思えるのです、このときばかりは。

全幕の「白鳥の湖」を見たかった。でも後半には現代バレエPUSHがあった。
振付家のラッセル・マリファントとギエムが2人で踊る。とても生身の人間とは思えない。重力も感じさせず、というより完全に重力をコントロールし、水の中か宇宙空間かを動いている感じ。ギエムの肩のあたりの見事な筋肉の一本も見逃したくなかった。前から5列目だというのに双眼鏡はやはり役だった。
30分間もの長い踊り。5000馬力の人間、いやサイボーグだ。魂を吹き込まれたサイボーグを見ているよう。あんなに激しくもスローな動きを身体中の筋力を駆使して汗が感じられない。呼吸の乱れもない。30分間の最後だけ呼吸していることが感じ取れた。見事な、という言葉は少なすぎる。

帰り道、建物の裏手に出たら数十人の人がギエムが出てくるのを待っていた。思わずフラフラとその群れの中に入った。サイボーグではない生身のギエムを一目見たかった。30分ぐらいしたらホールの人が出てきて「サインをして下さるそうです。写真は遠慮してください。」まさかサインもらえるとは思わなかった。ちょっと離れた所から生身のギエムを見れさえすれば、と思っていました。
間近で見たギエムは非常にほっそりとむしろ小柄に見え、赤のTシャツを着て、つば付き帽子をかぶり、少女のように見えた。握手した手はほっそりと長い指で「アリガトウゴザイマス」とにこやかだったけど、やはり雲の上の人に感じられました。

芸術家に乾杯!こういう人達がいなかったらわたし生きていけないです・・。


(追記)
DVDを見ると、ギエムがパリ市内を運転する姿ときたら、すごいです。気が強くて危なっかしくて。パリジェンヌってこうなのでしょうか。ケガをしないでほしいです。


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コメント 4

herosia

演技が終わったギエムの笑顔にあっけにとられるのですね。人間だったのか、と。その瞬間に堰が切られる感動があります。一回で何度も感動がやってくる。まったく複数の次元を行き来する精霊の踊りであります。
by herosia (2007-12-28 23:25) 

ゆき

なるほど、シルヴィ・ギエムやマリファントは普通の人と異なる次元を自在に行き来しているように見えます。
シルヴィ・ギエムや他のバレエリーナを見ていると、私も少しだけでも身体を鍛えなくちゃ、と思ったりします。
同じ生物としてこんななまくらな身体は恥だという気が・・。
by ゆき (2007-12-28 23:45) 

ふくふきママ

気づいたらこちらにちゃんと記事が・・・♪失礼しました・・・。

ますます、わたくしも一度は生で見たい、という思いがつよくなりました。
ギエムは、年齢を重ねても、踊り続けることを選んでくれている。観ることができる我々は、なんという果報者でしょう。。。
by ふくふきママ (2008-01-09 21:32) 

ゆき

「白鳥」とPush、両方ともすごかったですよ。
ギエムの魅力はクラシックものと現代物、両方で光り輝いています。彼女は常に新しいものに挑戦しているようです。

ギエムのサイン、嬉しかったです♪
by ゆき (2008-01-09 21:54) 

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